AIが人間を超える世界は当分来ない
AI(人工知能)が人間を超える瞬間のことを「シンギュラリティ」と呼びます。日本語で表すと「技術的特異点」と呼びます。人工知能自身の自己フィードバックで改良された技術や知能が、「人類に代わって文明の進歩の主役」になる時点を指します。
自身の自己フィードバックで自身を改良できることが必要
AIは、自身の自己フィードバックで自分を改良することが求められます。AIとは、かつてそのように定義されていました。
いつのまにか変わった定義…AIとは
直近で活用されているAIは、自分自身のフィードバックで自分自身を改良しているでしょうか? 答えは「否」、フィードバックは主に人間が行って改良し続けています。
人間が改良に関与しているのですからAIが人間を超えることなどありえない状態です。今のAIは、「知的なふるまいを人工的に再現しフィードバックを人力で行いながら進化を続ける技術や知能」となっています。
「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」では
本の裏表紙には、AIが神になる?なりません! AIが人類を滅ぼす?滅ぼしません!シンギュラリティが到来する?到来しません! と書かれています。今の風潮に水を差すちょっと過激なキャッチコピーとなっています。
本の中で「AIは、論理、確率、統計の3つを使って様々な質問に回答している」とあります。2018年当時、スマホに搭載されているSiriに美味しいイタリア料理店は?と不味いイタリア料理店は?と聞いたら同じ結果を表示したそうです。
当時のSiriは美味しいと不味いの違いを認識していませんでした。しかし、この本が発売され、このことが明るみになったとき、中の人が改良を加えました。改良を加えられたSiriは、美味しいと不味いを使い分け始めました。これで一歩、人間に近づいた模様です。これを繰り返すといつの日か人間を超えるのでしょうか?
言葉の意味を考えずとも、人間ぽいのはなぜ?
言葉の意味を理解しないSiriは、論理、確率、統計の3つだけを使って答えを導き出しています。ですが世の人はその答えに納得し便利になったと言っています。人の発する質問に的確に答えを出しているように聞こえると。
「Siriは人間のよう」 と言われるようになりました。
大変興味深いことが本に書かれていました。
わりと多くの人々は文章の意味を理解していない
本文中には「中学校、高校の生徒に文章の読解力を試験した結果が衝撃的だった」と書かれています。
【設問】
Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢の中から1つ選びなさい。
Alexandraの愛称は( )である。
①Alex ②Alexander ③男性 ④女性
AI vs. 教科書が読めない子どもたち
全国中学生正答率 38%、全国高校生正答率 65%
正解は、①Alexです。
ちなみに、④女性と回答した割合は、全国中学生39%、全国高校生26%とのことです。
なぜ、④女性と回答した割合が多いのでしょうか?問いには、”Alexandra”と”愛称”と空欄があります。
そして、文章中にある「”Alexandra”と”愛称”の近くにあって、かつ回答の選択肢にあるもの」といった思考をすると④女性に行き着くのではないでしょうか。
おそらく、文章の接続詞などお構いなく、単語のみを拾い、都合よく解釈しているような気がします。うまくいけば当たりで、これを繰り返せば法則も見つかり正答率が上がる…ってSiriと同じ仕組みですね。
本文中では、中学校、高校での読解力低下を憂いています。
筆者は「Siriは人間みたい」と言っている人は、「Siriの回答が間違っていても気づいていない」のであって、人間の読解力レベルがSiriに近づいた結果ではないかと思っています。
読解力は人生を左右する
筆者は常々、最も重要な教科は国語だと考えてきました。英語やプログラミングを習得するには、まず国語が必要だろうという論理です。
本文中では国語の中でも読解力が重要と説いています。
そして、読解力と偏差値の相関を調べた結果が0.75~0.8あったそうです。
これは身長と体重の相関と同じ値です。偏差値が人生を左右する指標かと問われると答えに窮する部分もありますが、お金と同様、ある程度なければ幸せを手にするのは困難とも思っています。
読解力を向上させるにはどうすれば良いか
これ知りたいですよね。結論から言いますと「まだ、見つかっていない」だそうです。まず、「読解力と読書習慣は最も関係しそうだ」と考え、調査したが相関は無かったようです。そしてその結果は非常にショックだったと。
その他、学習時間、塾、家庭教師、習い事、スポーツ、音楽を調べたが、これらと読解力はなんら相関は見られなかったと。
得意な教科と不得意な教科で読解力の差が出るのではないかといった点でも調べたそうです。
結果、相関なし。
不得意な教科でも読解力の高い生徒はきちんと文章を理解しており、得意な教科でも読解力の低い生徒は問題文の理解をしていなかったようです。
スマホの利用時間、新聞の購読有無、ニュースの入手経路の違いなどについても相関はなかったようです。
最後に
実は、本文中に読解力が上がった例が書かれています。気になる方は読んでみてください。
AIは人間を超えるかというテーマで始まりましたが、AIを鍛える今の段階で人間の方がレベルダウンしているよねという話で終わりました。
SNSやLINEでは短い文章を繰り返し送受信することでコミュニケーションを行っています。企業の現場でも短いセンテンスでシンプルにわかりやすいのが尊ばれてきています。どれもこれも読解力の低下が招いたものでないと信じたいものです。